福井県、越前は越前ガニをはじめとする様々な海産物が有名であるが、伝統工芸品も有名なものが多数ある。越前指物もその一つである。指物というのは、釘などの接合具を使わずに板と板、板と棒、棒と棒を組み、さし合わせる仕事のこと、またその技法を使って作られた箪笥や什器、調度品、建具などの製品のことをいう。越前市には「タンス町」があるほど家具、建具の製造販売が盛んなのだという。国指定伝統的工芸品の越前箪笥や武生箪笥、武生唐木工芸、武生唐木指物などが有名である。越前箪笥はケヤキやキリなどの無垢材を主な材料として作られる箪笥で衣装箪笥、帳場箪笥、水越屋箪笥、手許箪笥などとして使われている。伝統の指物技術で組み立てられ表面に漆をかけて鉄製の金具を取り付ける重厚なつくりの箪笥であるが、それでいてどこか素朴で心のこもった仕上がりの箪笥であると評されることがある。越前では幕末から明治初期にかけて多くの指物師が活躍し、また明治末期から大正初期ごろには製造業といわれる企業体制が成立したといわれている。越前武生の木工(指物)の歴史は古く、江戸時代から明治初期に能面などの工芸的な仕事をしていたものや農業の中の器用なものがお膳風呂、板戸などを作っていたのだが、そのうちにこれが専業化されていって指物師として旦那衆の家に出入りするようになったのが始まりだという。平成25年には「越前箪笥」が国指定伝統的工芸品にも指定されるなど、その伝統は今でもなお受け継がれている。また、「木のぬくもり」「手作り」「本物の良さ」を基本に伝統技術、技法を代々伝承していっている一方で新しい商品の開発に取り組むなどしてさらなる越前指物の発展も図られている。古くからその地方に伝わる伝統を代々受け継いでいくことはとても重要なことであるが、ただ伝統をそのまま次の世代に伝えていくだけでなく、自分たちの世代で昔の人々が作り上げてきた技術を使用し、さらにすぐれたものを作り上げていこうという精神がとてもすばらしいように思う。