ヒラメの夢

私の夫は多趣味で、日曜大工やプラモデル作り、スノーボードやテニスにランニングと休日の度に「眠いけどやりたいことが溜まっているから寝たくない~」と言っては時間が足りないと嘆いている。そんな夫が一番時間を割いている趣味が釣りと素潜りである。素潜りだイカ釣りだキス釣りだと毎年いそいそと早朝から出掛けては一喜一憂して帰ってくる。私からすればイカやキス釣りは食べたいから行きたがる気持ちは分かるのだが、サザエやあわびを獲る素潜りは密漁になるからキャッチアンドリリースしなければいけないので何が楽しいのか分からない。それでも夫は素潜りに一番はまっていて、「宝探しみたいで楽しい」と子どものようにウキウキしながらモリを手入れして友人たちと出掛けていく。私はというと「前世に海で何かあったのかもしれない」と思うくらいの海恐怖症なので、滅多に一緒に行くことはない。恐怖症な上に心配性なので、海に行くという夫に以前は「毒のある危険生物がいるんじゃないの?波にさらわれたりしないの?」と心配しては怒られて喧嘩していた。
しかし数年前の夏、夫がいつも素潜りをしているという浜へ初めて一緒に付いていってみた。福井にあるその浜は、水が綺麗と言われている同じ福井の水晶浜よりも綺麗で、なおかつ人も少ないいわゆる穴場スポット。岩に波が打ちつけるような磯を想像していた私は、予想外の穏やかで美しい景色にほっとした。そして、子どものようにはしゃいだり「さっきヒラメがいたのに獲れなかった~」と悔しがったりする夫を見て、「あまり心配しすぎず応援してあげよう」と思ったのだった。
それからは、さすがに毎週末行かれると怒りはするものの、基本的には気持ちよく送り出せるようになった。私たちの目標はヒラメで、毎回「ヒラメ獲ってきてね!」「頑張るよ!」と送り出すのだが、いつも「今日もかさごだったよ~」と帰ってくる。かさごの煮つけをおいしいと言って食べながらも、やっぱりいつかはヒラメだねと夢を膨らませるのが毎年の恒例になっている。夫が捕まえたヒラメを食卓に並べる日は果たしてくるのだろうか…。